110日齢まで集団生活と環境に馴れさせ、260日齢(約8か月半)まで放牧

「エルパソ牧場では自然繁殖に子豚が生まれています。その子豚を生後30日齢で離乳させ、離乳舎(子豚専用豚舎)で50日齢まで育てた後、51〜80日齢まで広々としたビニールハウスの第一子豚舎(子豚育成施設)で群れ飼いし、さらに81日齢になった豚を110日齢まで、屋内と屋外を行き来できる放牧前期舎(放牧前育成施設)に移して飼育します」と平林さん。
30〜80日齢までの二度の子豚舎での群れ飼いの50日間を、集団生活に馴れさせ、病気や虚弱な豚を判別して別施設で育成する期間とし、放牧前期舎での81〜110日齢までの30日間を外部環境に馴れさせる馴致期間としています。
育成施設では、トウモロコシ主体の配合飼料、牧草(青草のない冬は牧草サイレージ、乾草など)、キノコの菌床、粉炭、ホエー(乳清。牛乳から乳脂肪やカゼインなどを取り除いたもの)、野菜屑などを餌として与えます。ホエーはカルシウムが豊富で、粉炭は腸内環境を整えます。
110日齢を過ぎると豚は放牧されます。放牧場に移された豚は山や谷、林地、草地、沢など変化に富んだ地形の放牧地を自由に駆け回り、仲間とじゃれ合って遊び、伸び伸びと育ちます。<
放牧地には屋根だけの小屋が4棟あって、床には寝床のように藁が敷き詰められ、夕方になると豚は自然に集り、藁に埋もれたり、仲間と体を寄せ合ったりして眠ります。十勝では真冬になると氷点下10〜15℃まで気温が下がることも珍しくありませんが豚は凍えることなく、雪のなかでも元気に過ごしています。
野草、牧草、木の実など自然のなかから多用な栄養素を摂取

放牧中は不断給餌(いつでも餌を食べられるようにする)ですが、豚は自然のなかで野草や牧草、木の枝、ドングリなどの木の実を食べたり、鼻で土を掘って草木の根や土中の虫を食べ、土を嘗めたりして多様な栄養素、ミネラル分を摂取しています。また、青草や木の実が得られない冬の期間は配合飼料とともに牧草サイレージ(牧草をロール状に丸めて発酵させたもの)や乾草を与えています。
「動物にはそれぞれ特有の習慣があり、豚には鼻で土を掘る、水場で泥遊びをする、朽ち木や木の枝、石を拾って噛む(チューイング)などの習慣があります。こうした特有の習慣を満足させることでストレスが軽減し、心身の健康を取り戻し、健全に生育します」と平林さんは説明します。
一方、狭い豚舎で密飼する一般の養豚場では一坪(3.3平方メートル)に2.5頭の飼育が標準といわれ、豚は成長すると身動きができなくなり、折り重なるようにして眠るため良質の睡眠が得られず、鉄製あるいは強化プラスチック製の簀子やコンクリート床のために特有の習慣である鼻で土を掘ることや泥遊び、チューイングもできず、ストレスから鉄柵を噛む、喧嘩をする、仲間の体に噛みつくなどの異常行動が見られ、緊張感、絶望感から精神に異常を来しているといわれます。
また、狭い豚舎での密飼いでは糞尿処理もままならず、周辺に糞尿の臭いが蔓延している養豚場もあり、衛生状態も悪く病原菌が繁殖しやすくなっており、運動不足で体力のない豚が病原菌に感染しやすいことから病気予防のために抗生物質や殺菌剤が多用されています。抗生物質は成長促進のための飼料添加物として餌の中に混ぜられている場合もあります。一般の豚肉の臭みは、実はこうした飼育環境の悪さや穀物主体の配合飼料(濃厚飼料)の多給による豚の腸内環境の悪さに起因するといわれます。
平林さんは「一般の豚舎飼いされる子豚は、母豚の乳首を傷つけないように歯を切られ(切歯)、子豚同士の尾かじりを防ぐために尻尾を切られ(断尾)ますが、エルパソ牧場では子豚にストレスを与えないために切歯、断尾をしていません。切歯、断尾された子豚よりストレスが少なく、発育もよい」と指摘します。